「プラスチック生産は今後も増え続け、2050年には今の4倍になるかもしれない*」
と言われたら、「え?」と思いませんか?
実はこれだけプラスチックごみ問題への取り組みが進んでいるにも関わらず、このままではプラスチック生産は増え続け、それに伴いプラスチック汚染も悪化し続けるという報告が多くされているのです。
海に流れるプラごみは今でもすでに最大で毎年1200万トンと言われ、莫大な量が流れ出してしまっています。PEW Charitable Trustは、使い捨てプラスチックを減らそうという現状の政府や企業の取り組みが上手くいったとしても、2040年には今より2倍以上のプラごみが海に流れ続ける、と予測しています*。
しかも、海洋汚染のイメージが強いプラスチックごみ問題ですが、製造から廃棄から全ての段階で環境や健康への影響があるのです。
製造から廃棄:ライフサイクル全体における気候変動への影響
海の汚染だけでなく、99%が化石燃料由来のプラスチックは、ライフサイクル全体での環境への影響が非常に大きいことが近年分かってきています。
ここで言うライフサイクルというのは、プラスチックを作るために石油が採掘・輸送され、精製・生産、廃棄物管理、自然界への流出も含めた全ての過程を示しています。
こうしたライフサイクル全体から排出される温室効果ガスは、年間で石炭火力発電所189基分と言われおり、このままプラスチックが増え続けると2050年には615基分になるとのことです*。しかも、ライフサイクル全体での排出量はいまだに把握が難しいところもあり、これはあくまで控えめな予測です。
この増加により、気温上昇を1.5度以下に抑えるために、今後排出が許されている温室効果ガスの累計排出量である「炭素予算」の内、2050年には炭素予算の10~13%をプラスチックが占めてしまうことになります。
気候変動だけじゃない、環境と健康への影響
プラスチックライフサイクルにおける問題は、温室効果ガスの排出だけでなく、人々の健康にも強く関係しているのです*。
石油採掘
石油やガスの抽出の段階で、170以上の化学物質が使われますが、これらが水や大気に大量に放出されます。こうした物質は深刻な健康被害をもたらす可能性があり、がん、神経障害、生殖機能などに加え、肌や目、その他の感覚器官、肺、脳などに直接的な影響を与えます。
製造
同様に化石燃料からプラスチック樹脂や添加物を生産する際にも、発がん性物質や有害物質を大気中に放出します。これらの物質は神経系の損傷、生殖・発生の問題、がん、白血病などの影響を与えることが分かっています。
使用
プラスチックに添加された化学物質はポリマーに化学結合していないので、電子レンジで温めたりするたびに簡単に溶け出し、体内に取り込んでいる可能性があります*1。
*1 プラスチック・フリー生活 (2019年 NHK出版)
廃棄
ガスかなどを含む焼却の際には、鉛や水銀といった毒性のある金属や、残留性有機汚染物質(POPs)、その他ダイオキシンなどの有害物質が大気中や焼却灰に放出されます*。
こうしてプラスチック製品や容器包装は市場に出回った後もその影響が続き、多くの有害化学物質やマイクロプラスチック、焼却などの廃棄物管理、環境中への流出など、すべての過程において有害化学物質への暴露が深刻な懸念になっているのです。
【2021年最新】マイクロプラスチック汚染、海や環境、健康影響についてわかってきたこととは?
また、日本を含む先進国は、これまで自国でリサイクルできない廃プラスチック(プラごみ)を「リサイクル目的」で輸出してきました。こうして送られたプラごみには多くの「汚れたプラスチック」が含まれ、輸出先の途上国で多くの環境汚染、健康被害を引き起こしてきたのです。今年からバーゼル条約の新ルールが開始しましたが、いまだに問題を抱えた取引が続いていることが分かっています*。
化石燃料業界と人権問題
プラスチック生産に限らず、化石燃料を燃やすことは、有害な大気汚染を引き起こし、呼吸器系、心血管疾患、早期死亡率など健康への深刻な影響を与えます。
グリーンピースUSAなどの報告によると、化石燃料に関係した大気汚染は、2018年は米国だけで約35万5千人の早期死亡の原因となっています。米国では、稼働している油田やガス田の近くに1760万人が住んでおり、610万人以上が石油・ガス精製施設から5キロ圏内に住んでいます。
また、パイプライン、採掘現場や精製施設の天然ガス施設からの汚染により、100万人の黒人の発がんリスクを高め、13万8千人の喘息発作などの原因になっています。こうした被害を受けるのは、アフリカ系黒人などの非白人や貧困層などに偏っており、構造的な人種的不正義の問題でもあると指摘されているのです。
この報告では主に大気汚染に絞って調査がまとめられましたが、化石燃料ビジネスと環境正義の関係性は深刻で、様々な社会環境問題とつながっています。
本当は「安くない」プラスチック?
こうした数多くのライフサイクルにおける問題を考えた場合、コストが安くて便利が理由で普及してきた使い捨てのプラスチックは、本当に「安い」のでしょうか?
安さの裏にある多くの環境汚染、そしてコミュニティーへの深刻な被害を考えると、実はとても「高い」ものです。
では、このような深刻なグローバル課題を解決するためにはどうしたら良いのでしょう。
私たちグリーンピースは、「使い捨てない社会」に移行することが、環境にとっても良く、人にとっても公正な社会に繋がると考えています。
「使い捨てない社会」に向けて
日本の一般家庭から出るごみの63%は使い捨てが多くを占めるプラスチックやその他の素材でできた容器包装です(容積比)*。
まずは、使い捨てごみを大幅に減らすことが肝心です。プラスチックだけでなく、例えば紙であっても貴重な森林資源から作られています。
使い捨てごみを大幅に減らすために、いらないものは大幅に「リデュース」すること。
そして、使い捨てそのものが必要のないビジネス・社会に移行していくことが肝心です。
Text:Hiroaki Odachi
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